商品の不良・契約不適合と、免責条項

厳しく書いたつもりの免責条項が無効になると、免責の定めがないのと同じになり、かえって無防備になります。

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「故意・重過失を除き一切責任を負わない」と「購入代金を上限」の組合せは、前段も後段も無効になり得ます。

このページの要点

  • 事業者の責任の全部を免除する条項は無効(消費者契約法8条1項1号)。
  • 一部の免除は、軽い過失の場合に限ることをその条項の中で明らかにする(同条3項)。
  • 生命・身体の損害と製造物責任は上限の外に出し、不適合の場合の交換・返金の責任は明記する。
  • サロンや法人のお客様には、受取り後の検査と通知(商法526条)の特則を置く。

「一切責任を負いません」が二重に無効になる仕組み

ネットショップの規約で最もよく見かける危ない条項が、責任の制限です。事務所が見直した依頼者の旧規約は、次のように書かれていました。

事務所の改訂例|責任の制限

損害賠償の条

改訂前当社は、本サービスの利用により生じた損害について、当社に故意または重過失がある場合を除き、一切責任を負いません。当社の責任が認められる場合でも、当社の賠償責任は、当該商品の購入代金を上限とします。(依頼者原案)
改訂後責任の範囲を、①通常の損害を商品代金額まで、②故意・重大な過失の場合は①を適用しない、③生命・身体の損害と製造物責任には①を適用しない、④商品の不適合は返品の条により交換又は返金で対応する、という層に分けて書き直しました。

前段は軽い過失の責任を全部免除する条項として、後段は軽い過失の場合に限ることを明らかにしていない一部の免除として、どちらも無効になり得ます。両方が無効になると、免責の定めがないのと同じになり、賠償の範囲は民法の原則に戻ります。

前段は、債務不履行による責任の全部を免除する条項(消費者契約法8条1項1号)と、債務の履行に際してされた不法行為による責任の全部を免除する条項(同項3号)に当たります。後段は、令和5年6月から、軽い過失の場合に限って適用されることをその条項の中で明らかにしていない一部免除の条項として、無効とされるようになりました(同条3項)。「厳しく書いておけば安全」と考えて書いた条項が、かえって何も書いていないのと同じ状態を生む、という典型です。

事務所の書き方:層に分ける

第◯条(当社の責任)

  1. 当社は、本サービス又は商品に関してお客様に損害を与えた場合、請求の原因を問わず、現実に生じた直接かつ通常の損害の範囲で、当該商品の代金額を上限として責任を負います。商品に関しない損害については、過去○か月間にお客様から受領した金額の合計(ただし○円を下回らない額)を上限とします。
  2. 当社の故意又は重大な過失による場合は、前項は適用しません。
  3. お客様の生命又は身体に生じた損害、及び製造物責任法に基づく責任については、第1項は適用しません。
  4. 引き渡した商品が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合、当社は、返品の条の定めにより、交換その他の履行の追完又は代金の減額(返品を受けて代金を返還する場合を含みます。)の責任を負います。

最後の項は、商品に不具合があった場合に交換や返金の責任を負うことを明記するものです。消費者契約法8条2項は、有償の契約で、不適合のときに事業者が追完(交換・修補)又は代金の減額の責任を負うこととされている場合などには、不適合による損害賠償の免除条項を同条1項1号・2号による無効の対象から外しています。軽い過失の場合の上限(第1項)は、同条3項の要件(軽い過失に限ることの明示)を満たすことで有効になります。

上限の下限額(「○円を下回らない額」)を置いたのは、少額の商品で上限が極端に低くなり、実質的に責任を免れる条項と評価されないようにするためです。生命・身体の損害と製造物責任を上限の外に出すのは、ネットショップで売る商品が人の体に触れるもの(化粧品・食品・用具)であることが多いからです(OEM商品と製造物責任)。

サロンや法人がお客様のとき:事業者の特則

プロ向けの用品を売るネットショップでは、個人のほかにサロンや法人も買います。ヒヤリングで法人・サロン向けの大口販売があると分かったため、事業者のお客様に向けた特則を置きました。

  • 事業者のお客様は、受け取った後遅滞なく商品を検査し、不適合の責任は商法526条による(この場合、消費者向けの「期限を過ぎた後も法令上の権利は妨げない」という項は適用しない)
  • 賠償は商品の代金額を上限とし、間接損害や逸失利益を含まない(故意・重大な過失の場合を除く)
  • 屋号や法人名義での注文、事業用であることの申告がある注文は、事業者による注文と推定する

商人どうしの売買では、買主は受け取った後遅滞なく検査し、不適合を発見したら直ちに通知しないと、その不適合を理由とする請求ができなくなります。すぐには発見できない不適合でも、6か月以内に発見して通知しなければ同じです(商法526条1項・2項)。消費者向けの緩い連絡期限を、そのまま事業者のお客様にも当てはめないための特則です。海外の会社の食品ECでも、飲食店などの事業者のお客様について同じ構成の特則を置きました。

生きた植物を売るとき:自然の変化と不適合を分ける

植物を販売するサイトの依頼者原案では、規約で、故意・重大な過失がある場合を除いて責任を全部免除し、故意・重大な過失がある場合にも購入時の価格を上限とする定めになっていました。特定商取引法に基づく表記でも、植物であることを理由に、重大な不具合がある場合を除いて不適合の責任を免除する書き方でした。

事務所の改訂例|植物の不適合の扱い

表記の不適合の欄

改訂前植物であることを理由に、重大な不具合がある場合を除いて不適合の責任を免除する一文。(依頼者原案)
改訂後「生きた植物である性質上、樹の姿・葉の色・葉の量などの時間の経過による変化は避けられないため、通常の管理が行われていた限り、これらの変化について責任を負わない。ただし、著しい損傷や明確な不具合がある場合で、商品到着後○日以内にご連絡があったときはこの限りでない」と組み替えました。

免責の対象を自然の変化に限り、例外と連絡の期限を明示しました。故意・重大な過失の場合にまで上限をかける部分は、消費者契約法8条1項2号・4号の問題になります。

生き物や天然素材を売る店では、「自然の変化」と「不適合」の線引きを、規約・表記・商品ページで同じ言葉で書くことが要になります。商品ページに「一つひとつ形が違います」と書くなら、規約でもその範囲の違いは不適合に当たらないことを書きます。

中古品の「現状有姿」

中古のブランド品を事業者向けに卸す契約の依頼者原案は、中古品・現状有姿の売買で、買い手は個々の商品の状態を事前に確認しないことを承諾する、状態の不具合は引渡しから○か月以内、正規品でないことは○年以内に通知すれば返品できる、それ以外は品質・性能などの保証責任を負わない、という内容でした。

事業者どうしの取引なので、現状有姿を明示すること自体は有効としつつ、すり替えや一部の毀損の主張を排除する手当てがないこと、返品の際の同一性の確認(出荷時の写真と管理番号)を条件にすること、買い手が再販売した後に第三者から偽物と主張された場合の責任の分担、「正規品」と誤認させる表示をしない誓約と表示に起因する損害の補償を提案しました(中古品・古物の販売と買取)。なお、消費者に売る場合に「現状有姿」「ノークレーム・ノーリターン」の一言で不適合の責任を全部外そうとすると、消費者契約法8条で無効となる余地があります。事業者どうしでも、売主が知りながら告げなかった事実については責任を免れません(民法572条)。

商品の不具合で問われる責任の整理

  • 商品が契約の内容に合っていない交換・修補(追完)、代金の減額、損害賠償、解除を求められる(民法562条〜564条)。お客様は不適合を知った時から1年以内に通知する(同法566条)
  • 購入者が事業者受取り後遅滞なく検査し、直ちに通知しないと請求できない。すぐに分からない不適合は6か月以内(商法526条)
  • 商品の欠陥でけがをした製造物責任。自社ブランドとして名前を表示した販売者も責任を負う場合がある(製造物責任法2条3項・3条)
  • 規約で責任を制限したい消費者向けは全部の免除は不可。一部の免除は軽い過失に限ることを明示し、不適合の責任は明記する(消費者契約法8条)

返品の受け方と不適合の責任は、同じ商品の不具合を別の角度から見たものです。不適合の場合の交換・返金の手順は返品特約と返金ポリシーで、手順を書く場所と責任を書く場所を分けています。

各条に「一切責任を負わない」を散らさない

プロ向けネイル用品の自社ECの規約では、責任が問題になりそうな条ごとに免責を書くのではなく、責任の範囲を一つの責任の条に集めました。次の場面の条には、それぞれ「当社の責任は、第◯条(当社の責任)の定めるところによる」とだけ書いています。

  • アカウントの管理が不十分だった場合
  • 使用方法に反する使用、目的外の使用、施術の過誤
  • 価格の誤表示、決済の障害、配送の遅延
  • 違反時の措置、サービスの停止
  • リンク先の第三者のサイトや、埋め込まれた動画・SNSなど第三者のサービスの内容と安全性(ここだけは責任の条の中の項として書いています)

各条に「一切責任を負わない」と書くと、その一つひとつが消費者契約法8条の問題になります。責任の条(直接かつ通常の損害、代金額の上限、故意・重大な過失と生命・身体・製造物責任の除外)に集めておけば、個別の条で抵触することを避けられます。リンク先や埋め込みのサービスについても「一切責任を負わない」とは書かず、第三者の責任で提供されるものであることと、それに起因する損害についての店の責任も責任の条による、という書き方にしています。

違反時の措置の条も、注文の承諾の拒絶・成立済みの契約の解除・投稿の削除・ポイントの失効・アカウントの停止などを並べたうえで、緊急やむを得ない場合を除き、あらかじめ理由を通知して是正を求めることを原則にしました。措置を発動できる事由の最後の受け皿は「利用の継続が適当でないと当社が合理的に判断した場合」ですが、措置による損害の責任は責任の条に送り、免責とは切り離しています。

お客様の責任と、分離可能性の第2項

お客様の側の責任の条には、規約違反などで店に与えた損害に「決済事業者からの求償、チャージバックに係る費用及び合理的な範囲の調査対応費用を含む」と書きました。不正な注文で店に生じる損害の中身を具体的にしたものです。

分離可能性の条には、一部の条項が無効とされても残りは有効、という通常の項に加えて、「いずれかの条項が特定のお客様との関係で無効又は執行不能と判断された場合であっても、他のお客様との関係における有効性等には影響を及ぼさない」という項を置きました。消費者と事業者が混在して買う店で、消費者との関係で無効とされた条項が、サロンなど事業者のお客様との関係まで当然に無効になるわけではないことを示す項です。

同じ店の依頼者からは、「消費者」という言葉を規約から消したいという要望もありました。事務所は、「利用者」に言い換えるとかえって誤読を招くと説明し、言い換えではなく、本文で使われていない定義そのものを削除する形で対応しました。

製造を受ける側から見た、上限と保証期間の組み直し

プライベートブランドの食品の製造委託で、受注者の側から委託者のひな形に修正を求めた事例では、責任の条の組み直しが中心になりました(OEM・製造委託)。

事務所の改訂例|PB食品の製造委託(受注者側からの修正の要求)

賠償の上限

改訂前先行する他社の修正で上限が入っていたが、その射程が全条項に及ばず、ある条では「全額を賠償・補償」、別の条では「逸失利益を含む」となっていた。(委託者のひな形)
改訂後上限を独立した項にして、①どの条項に基づくかを問わず、責任の総額は原因となった個別契約の製造委託料の総額を上限とする、②逸失利益・間接損害・特別損害は対象外、③回収などの費用も上限に含む、④ただし故意・重大な過失、第三者の生命・身体の損害、秘密保持の違反は除く、としました。

④は、賠償額の上限の定めは故意又は重大な過失がある場合には適用されないとした最高裁判所の判例を根拠に挙げています。人身の損害は上限ではなく製造物責任保険で受け止める整理です。

食品の保証期間

改訂前期間を短くする修正の結果、「食品の場合は引渡しから○年」という但書が本文と同じ内容になり、意味を失っていた。(委託者のひな形)
改訂後但書を「消費期限又は賞味期限の定めのある委託商品については当該期限まで」に改め、発見から一定期間内の通知を加えるよう求めました。数量不足を指摘できる期限も追加を求めました。

委託者が納品の検査を行わない構成のため商法526条が働かず、数量不足を指摘できる期限が定まっていない、という理由です。

全数不適合のみなし

改訂前不良が「合理的な割合」を超えると、同一・同種の商品の全部が不適合とみなされる(例示の数値は空欄)。(委託者のひな形)
改訂後仕組み自体には異論がないとしたうえで、①割合を数値(同一ロットで一定の%)にする、②対象を「当該ロットに属する商品の全部」に限る、③「合理的に推測される場合」を「検査結果その他の客観的資料で示した場合」に改める、を求めました。

回収を発動する条も同じ基準にそろえ、回収費用の最終的な負担は、契約の中の寄与度・責任割合の条によるとする但書を求めています。

食品の表示の責任の切り分けは食品のネット販売で紹介しています。

よくあるご質問

ネットショップの利用規約に「一切責任を負いません」と書いても有効ですか?

お客様が消費者なら、事業者の責任の全部を免除する条項は無効です(消費者契約法8条1項1号)。無効になると賠償の範囲は民法の原則に戻るので、かえって不利になります。

損害賠償の上限を「商品代金まで」とするには?

上限の条項に「当社の故意又は重大な過失による場合を除く」ことを明記し(消費者契約法8条3項)、生命・身体の損害と製造物責任は上限の外に出し、不適合の場合の交換・返金の責任は別に明記します。

サロンや法人がお客様の場合も、消費者と同じルールですか?

事業者どうしの売買には消費者契約法は適用されず、商人間の売買では受取り後の検査と通知の決まり(商法526条)があります。事業者のお客様向けの特則を規約に置き、事業者による注文の推定の基準も書いておきます。

中古品や植物を売るとき、不適合の責任はどこまで免除できますか?

中古の状態や自然の変化など、商品の性質から当然生じる違いは、その範囲を具体的に書けば不適合に当たらないと整理できます。消費者に対して不適合の責任を全部外すことはできません。

自社ブランドで売る商品の事故は、誰が責任を負いますか?

製造者のほか、自らを製造業者として表示した者や、製造業者と誤認させる表示をした者も製造物責任を負います(製造物責任法2条3項)。OEMで作った自社ブランド品なら、販売者も責任を問われ得ます。

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本ページは一般的な情報提供です。許可・届出・免許の運用は、所管の行政機関によって異なることがあります。事務所の改訂例・ご相談の事例として紹介している内容は、アトラス行政書士法人が作成・レビューしてきたネットショップの利用規約・特定商取引法に基づく表記・返金ポリシー、酒類の免許の申請、化粧品・中古品・OEM・販路の契約書などを、個別の事業者が特定できない形に整理したものです。条文は e-Gov法令検索で確認しています(最終確認日:2026年10月15日)。参考: e-Gov法令検索 / 特定商取引法ガイド(消費者庁) / 消費者庁 / 国税庁 お酒に関する情報

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