海外の会社が日本の消費者に売るとき

販売業者が海外の会社でも、日本の消費者に売るなら日本の法律がかかります。売主と輸入者の二重の構造を、書類の間で矛盾なく説明することが出発点です。

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協力者の自宅で日本の電話番号を管理してもらうと、「国内の事務所等」に当たり、かえって住所を表記に載せることになりかねません。

このページの要点

  • 販売業者は登記上の名称で書き、日本語の通称だけにしない。
  • 日本の倉庫は販売業者の住所ではなく「発送元・返品先」として別の欄に置く。
  • 日本の口座で代金を受け取り送金する形は、銀行法・資金決済法上の為替取引に当たるおそれがある。
  • 準拠法・裁判所は日本に一本化し、個人情報は自社・預け先・配送先の3層に分けて書く。

海外の会社が日本の消費者に売るとき

海外に本拠を置く会社が、日本の消費者向けにネットショップを開く。事務所が手がけた事例では、海外の会社が売主として加工食品を販売し、輸入の通関・保管・国内の発送は日本の提携事業者が行い、ショップの基盤はShopify、決済は第三者の決済代行、という構造でした。この構造から、「特定商取引法の表示は販売業者である海外の会社の情報、食品のラベルは輸入者である日本の事業者の情報」となり、お客様から見ると2つの事業者名が現れます。この二重の構造を、規約・表記・商品ページで矛盾なく説明することが出発点になりました。

当事者と役割(海外の会社の日本向け食品ECの例)
役割担い手書類に表れる場所
販売業者・売主・代金の受領者海外の会社特定商取引法に基づく表記、利用規約
個人情報取扱事業者海外の会社プライバシーポリシー
輸入通関・保管・国内発送日本の提携事業者表記の「発送元・返品先」、食品のラベル(輸入者)
ショップの基盤Shopifyプライバシーポリシー(外国にある委託先)
決済第三者の決済代行表記の支払方法

海外の会社でも日本の法律がかかる

日本に住む消費者に販売するなら、販売業者が海外の会社でも、特定商取引法の表示の義務はかかります。個人情報保護法も、日本にいる人に商品を提供することに関連して個人情報を扱う外国の事業者に適用されます。準拠法を外国の法律にしても、消費者は、住んでいる国(日本)の法律の強行的な規定の適用を主張できるとされています。そこで、この事例では準拠法を日本法に一本化し、裁判所も日本の裁判所を合意の管轄としました。

もっとも、判決をその国で執行できるかは別の問題です。提案書では、お客様とのトラブルが実際に解決される場面は、裁判よりも決済代行会社のチャージバック(カードの支払の取消し)になることが多いと説明しました。だからこそ、返品・返金の条件を規約と表記で一つの意味にしか読めないように書いておくことが、事業者の身を守る資料になります(返品特約と返金ポリシー)。

販売業者の名前は、登記どおりに

事務所の改訂例|販売業者の名称の表示

名称の書き方

改訂前日本語に訳した会社名(「株式会社○○」など)だけを表示する案。
改訂後現地の登記上の名称を正とし、英文の登記名称と日本語の表記をかっこで併記しました。登記番号も任意で表示し、代表者(現地の法定代表者)と通信販売業務の責任者(日本語で対応できる人)を書きました。

翻訳した名前だけを書くと、登記上存在しない名称を表示することになり、日本の会社と誤認されるおそれもあります。実在を消費者と決済会社が確かめられるようにすることが、信用にもつながります。

日本の倉庫は「住所」ではなく「発送元・返品先」

販売業者の住所は、実際に活動している場所を書きます。海外の会社が、日本の知人宅や提携先の倉庫を販売業者の住所として表示することはできません。この事例では、提携先の倉庫を「発送元・返品先」として別の欄に置きました(提携先の承諾が前提です)。

表記には、国内に事務所などがある場合に限って書く欄があります(特定商取引法施行規則23条3号)。この欄は、倉庫の契約の名義と従業員の常駐の有無が確定するまで記入の枠にしておき、プライバシーポリシーでは「国内の拠点の有無は表記の当該欄に記載するとおり」と連動させて、書類の間で矛盾が出ない構造にしました。

依頼者からの質問と事務所の回答|日本の電話番号と「国内の事務所」

Q従業員ではない私的な協力者の自宅で、日本の電話番号を取得して管理してもらったら、「国内の事務所等」に当たりますか?

A条文は「その行う事業に係る事務所、事業所その他これらに準ずるもの」です。その場所で事業の活動(お客様の対応や受注の管理)が繰り返し行われているか、会社がその場所を管理しているか、外から見て営業の拠点と認識されるか(郵便物の受取りや来客の対応)で判断されると考えられます。電話の取次ぎだけなら当たらない方向ですが、実質的なお客様の対応まで行うなら当たるおそれがあります。当たれば、協力者の自宅の住所を表記に載せる必要が生じ、「住所を公開しない」という目的と逆になります。

この回答を受けて、依頼者は日本の電話番号の取得を見送りました。電話番号を請求があれば開示する形にした場合でも、前払いのお客様への通知には実際の電話番号を書く必要があることは、注文確認メールと契約の成立で紹介したとおりです。

日本の口座で代金を受け取る案への注意

依頼者からは、日本の提携事業者の口座で日本の消費者の代金を受け取り、手数料を差し引いて本国の会社へ送金する案も出ました。事務所からは、提携事業者が自分の輸入の取引の対価としてではなく、海外の会社のために金銭を預かって繰り返し送金する機能を果たすと評価されれば、銀行法・資金決済法上の「為替取引」に当たり、銀行の免許や資金移動業の登録がないまま行う営業となるおそれがあることをお伝えしました。お客様から見て代金の受取人が売主ではないように見えるため、表記・規約の「販売業者」「代金の受領者」との整合も問題になります。依頼者は銀行振込を採らず、カード決済だけにすることで確定しました。

個人情報は3つの層に分けて書く

海外の会社のプライバシーポリシーの整理

  1. 第1層:自社で取得して海外で扱う海外の会社が本人から直接取得して自社で扱うので「提供」ではなく、外国にある第三者への提供の同意は要らない。ただし安全管理措置の公表に外国の名称と、その国の制度を把握したうえでの措置を書く
  2. 第2層:Shopifyへの預け入れ外国にある委託先への提供として、国名・制度・措置の情報を示す
  3. 第3層:日本の提携事業者・配送業者への配送先の提供配送のための委託として整理し、委託先と個人データの取扱いの契約を結ぶよう案内

本国の個人情報保護法にも同時に服するので、本国の法律への対応は、日本向けの書類とは別に整理する前提にしました。Shopifyへの預け入れの整理も参考にしてください。

関税・消費税の誤解を先回りする

国内の提携事業者が輸入の通関と保管を行い、日本の倉庫から発送するため、お客様に関税や輸入消費税の追加の負担が生じないことを規約と表記に明記しました。海外からの通販で多い「受け取るときに追加で請求された」という苦情を防ぐためです。日本の倉庫にある商品を消費者に売る取引は国内の取引と評価され得るため、消費税の納税義務や納税管理人の要否も別に検討が必要になります(税務の取扱いは本ページの対象外です。配送のルール)。

倉庫と提携事業者について、何を聞いたか

海外の会社の日本向け食品ECでは、ヒヤリングシートの一つの部を、提携する輸入業者と倉庫に充てました。未確定の項目は「未定」で答えられるようにし、確定し次第書類に反映する前提を冒頭に書いています。

提携輸入業者・倉庫の部の設問

  1. 提携輸入業者の名称表記の発送元・返品先や、食品のラベルの輸入者に関わる
  2. 倉庫の所在地未定なら、発送元・返品先の欄を記入の枠で作る
  3. 倉庫の契約名義と従業員の常駐の予定国内の事務所等の欄に当たるかの判定に使う。輸入業者の名義・運営で、従業員が常駐しないなら対象外と整理できると注記
  4. 倉庫の住所を表記に載せることへの承諾得ている/未確認/住所は載せず別の方法で案内したい、から選ぶ
  5. 食品の輸入の届出・営業の届出輸入業者がその手続を行う立場か
  6. 保存の温度帯冷蔵・冷凍か、常温か

事業者情報の部では、受付時間は時差を考えて日本時間で聞き、電話番号の方針は「請求があれば開示/国内の番号を取って表示/その他」から選んでもらいました。表記の完成形には「お問い合わせ受付時間(日本時間・年中無休・日本語対応可)」の欄が並びます。

海外で扱う個人情報を、ポリシーの独立した条で書く

この事例のプライバシーポリシーでは、「外国における当社自身の取扱い」を独立した条にしました。本人から海外の会社への直接の提供は第三者への提供に当たらないこと、事業の継続とバックアップのために氏名・住所・購入履歴を当社の業務用パソコンにファイルとして保存することがあり、パスワードでアクセスを制限すること、本国の個人情報保護法には主管機関・是正命令・罰則など日本法と異なる点があり、その法律も守ること、を書いています。ヒヤリングで「Shopify以外の社内のシステムへ転記するか」を聞いた回答を反映したものです。設問には、事務所が作るのは日本法に基づくプライバシーポリシーであることも明記しました(Shopifyへの預け入れの整理)。

決まっていないことを、決まっていないまま正しく書く

会社の所在国によってはShopifyの標準の決済が使えないため、決済は第三者の決済代行会社に委ねる構造でしたが、その会社は書類を作った時点で選定中でした。プライバシーポリシーには、決済業務を第三者の決済代行会社に委託する予定であること、作成時点では名称と所在国が確定していないこと、確定し次第、名称・所在国・その国の制度・講ずる措置の情報を追記して公表することを書き、関係する国の列挙にも「その他決済代行会社の所在国」を入れました。未定の事項を伏せるのでも、決まったように書くのでもなく、未定であることと、決まったら何を追記するかを書いておく方法です。

海外の会社の書類に置いた条項(抜粋)

  1. (プライバシーポリシー)当社は外国の法人ですが、日本国内にある本人に対する物品の提供に関連して日本国内にある本人の個人情報を取り扱うものであるため、当社が国外において行う個人情報の取扱いについても、個人情報保護法が適用されます。
  2. (利用規約)本規約は日本語を正文とし、他の言語による表示又は翻訳は参考のためのものです。両者に相違がある場合は、日本語が優先します。

前者は、個人情報保護法が外国の事業者にも及ぶことを、本文で確認したものです。事務所の資料では、個人情報保護委員会のガイドラインが域外適用の例として、外国のインターネット通信販売事業者が日本の消費者に販売・配送する場合を挙げていることを根拠にしています。後者は、日本語のページだけにするか、現地語・英語のページも出すかをヒヤリングで聞いたこととセットで置きました。

請求開示は、運用の手順まで決めて成り立つ

提案書では、請求開示の方式は「表示しておけば終わり」ではなく、請求が来たときに遅滞なく開示することが要件で、開示が滞れば省略の要件を欠き、表示の義務の違反として行政処分・公表の対象になり得ると注意しました。そのため、請求の受付から開示までの運用の手順を、返信のひな形を含めて納品時に示す方針をとっています。時差があるため、遅滞なくの目安を「当日〜翌営業日」とし、受付時間を日本時間で表示することも求めました。提案書には、日本の消費者に向けて通信販売を行う海外所在の事業者も特定商取引法の処分・公表の対象になり得ることを挙げ、「海外の会社だから処分されない」とは考えられないこともまとめています(特商法表記)。

一方で、置かなかった条もあります。お金で買うギフトカードの導入の意向は、「導入予定はない/無償ポイントのみ導入予定/有償ギフトカードの導入を検討したい」の選択肢で聞き、設問の中でリスクを説明しました。回答は「導入予定なし」で、ゲスト購入も可、アカウントによって価格その他の条件に差を設けないという前提でもあったため、規約はポイント・ギフトカード・定期購入の条を置かない簡素な構成にしました(Shopify・BASEで開店するとき)。

よくあるご質問

海外の会社でも、日本向けのネットショップには特商法の表記が必要ですか?

日本に住む消費者に販売するなら必要です。販売業者は登記上の名称で書き、代表者又は通信販売業務の責任者も表示します。

日本に事務所がない場合、住所と電話番号はどう書けばよいですか?

実際に活動している本国の住所と電話番号を書きます。日本の倉庫や知人宅を販売業者の住所として書くことはできません。国内に事務所などがある場合に限り、その所在場所と電話番号の欄が加わります。

日本の倉庫の住所を載せてもよいですか?

販売業者の住所としてではなく、「発送元・返品先」として別の欄に載せることはできます。倉庫を運営する提携先の承諾を得ておきます。

準拠法や裁判所を本国にすることはできますか?

消費者は日本の法律の強行的な規定の適用を主張でき、裁判所の合意も消費者に対しては制限があります。日本の消費者向けなら、日本法と日本の裁判所に一本化する方が、かえって紛争を予測しやすくなります。

日本の口座で代金を受け取って本国に送金する方法に問題はありますか?

提携先が海外の会社のために金銭を預かって送金する形は、銀行法・資金決済法上の為替取引に当たるおそれがあります。カード決済だけにする方法もあります。

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