このページの要点
- 注文確認メールは承諾ではなく、発送のお知らせを送った時に契約が成立する、と規約に定める。
- 承諾しない事由を列挙し、最後の受け皿は「前各号に準ずる事由」に限る。
- 最終確認画面に分量・価格と送料・支払・引渡時期・申込期間・返品特約を表示する(特定商取引法12条の6)。
- 前払いで受け取り後すぐに発送しないなら、名称・住所・電話番号などを書いた通知を送る(同法13条)。
契約がいつ成立するかを書いていない規約の危うさ
ネットショップの売買契約は、お客様の注文(申込み)に対して店が承諾したときに成立します(民法522条1項)。ところが、事務所がレビューした依頼者の旧規約には、「注文をキャンセル又はお断りすることがあります」とだけあり、契約がいつ成立するのかが書かれていませんでした。
Shopifyなどのショップ作成サービスは、注文が完了すると同時に注文確認メールを自動で送ります。規約に何も書いていないと、この自動メールが店の「承諾」と受け取られ、注文した瞬間に契約が成立したと扱われるおそれがあります。そうなると、在庫切れや価格の表示ミスに後から気づいて注文を取り消しても「成立した契約を店が一方的に解除した」ことになり、転売目的の大量注文を断ることも、成立後の解除として争われ得ます。
事務所の設計:注文確認メールは承諾ではない
事務所が作成したネットショップの利用規約では、契約の成立を次のように定めています。最初の一文で自動メールの位置づけを明らかにし、成立の時点を「発送したとき」に置く設計です。
第◯条(売買契約の成立)
- お客様が注文手続を完了した後に自動で送信される注文確認メールは、注文の内容を確認するための通知であり、当社がお申込みを承諾したことを意味するものではありません。
- 売買契約は、当社が商品を発送し、発送をお知らせするメールを送信した時に成立します。商品の一部を発送したときは、発送した商品について成立します。
- 当社は、次のいずれかに当たるときは、お申込みを承諾しないことがあります。(1)注文の内容に虚偽、誤記又は不備があるとき(2)複数のアカウントを使うなど不正な注文と認められるとき(3)転売を目的とした大量の注文と認められるとき(4)決済が完了しないとき(5)配送できない地域が届け先とされたとき(6)在庫が不足するとき(7)前各号に準ずる事由があり、承諾することが適当でないと当社が合理的に判断したとき
- 当社がお申込みを承諾しないときは、その旨をお知らせし、受領済みの代金は返金ポリシーに従って返還します。
最後の受け皿の号は、「当社が不適切と判断した場合」とだけ書くと、判断の基準が読めない条項として争われやすくなります。列挙した事由に「準ずる」ものに限り、免責の条項とは切り離して書きます。
海外の会社が日本向けに冷凍食品を販売する事例では、これに加えて「輸入の際の検疫その他の手続で不合格となるなど、国内に搬入できないとき」を承諾しない事由に入れました。商品の性質によって、注文を受けられなくなる事情は変わります(海外の会社が日本向けに売るとき)。
事務所の改訂例|成立時期とお断りの事由
成立の時点
「合理的に」という言葉を添えるだけでは足りず、どんな場合に断るのかを列挙で具体化することが要です。
注文確認メールの文面と規約を合わせる
規約で「注文確認メールは承諾ではない」と書いても、そのメールに「ご注文を承りました」「ご契約が成立しました」と書いてあれば、規約と矛盾します。ショップ作成サービスの初期の文面をそのまま使わず、規約の成立時期に合わせて書き直します。
もう一つ注意したいのが、前払いの通信販売の通知です。カード決済などで代金を先に受け取り、受け取った後すぐに商品を発送しない場合は、承諾するかどうか、事業者の名称・住所・電話番号、受け取った金額と日、商品名と数量、引渡しの時期などを、遅滞なくお客様に通知しなければなりません(特定商取引法13条1項、施行規則37条)。お客様の承諾を得れば電子メール等でも通知できます(同条2項)。受け取った後すぐに発送するなら、この通知は要りません(同条1項ただし書)。
お申込みへの対応ご注文を受け付けたこと、発送のお知らせをもって契約が成立すること
商品と数量・お支払金額・受領日注文内容と、代金を受け取った日
引渡しの時期「○営業日以内の発送を目安とします」
申込みの撤回又は解除食品のため、お客様のご都合による返品はお受けできないこと
販売業者名称・代表者・所在地・電話番号(表記で電話番号を請求開示にしていても、ここには実際の番号を書く)
この事例では、表記の電話番号を請求開示にしていましたが、前払いの通知には省略の仕組みがないため、依頼者から実際の電話番号を教えていただいて文面に入れました。電子メールで通知することへの承諾は、購入手続の同意の文言に組み込みました。
最終確認画面に必ず出すもの
注文を確定する直前の画面(最終確認画面)には、商品の分量と、価格・送料、支払の時期と方法、引渡しの時期、申込みの期間、返品特約を表示しなければなりません(特定商取引法12条の6第1項)。この画面で、申込みになることや表示事項について人を誤認させる表示をすることは禁止され(同条2項)、それによって誤認して申し込んだお客様は申込みを取り消せます(同法15条の4)。
事務所の提案書では、Shopifyの標準の購入画面はおおむね要件を満たすとしつつ、返品特約への導線と、食品なら賞味期限の表示の位置を、設置の指示書で指定しました。返品特約は、広告に加えて「申込みとなる操作を行うための表示」にも見やすく表示することが求められるため(同法15条の3第1項ただし書、施行規則44条)、最終確認画面から返品のルールにたどれることが実質的に必須になります(返品特約と返金ポリシー)。
最終確認画面で見落としやすいこと
- 返品特約へのリンクがない表記ページにだけ置くと、返品特約の表示として不十分とされるおそれがあります
- 注文内容を訂正できない容易に確認・訂正できるようにしていないことは、行政の指示の対象になる行為です(同法14条1項2号、施行規則42条1項)
- 確認の画面そのものがない操作ミスによる注文について、店が「お客様の重大な過失だ」と争えなくなります(電子消費者契約法3条)
- 定期的に届く商品なのに回数・総額が分からない分量の表示として不十分になり得ます。定期購入の書き方は個別に設計します
事業者向けの卸サイトでは
事業者どうしの取引でも、いつ契約が成立するかは同じように決めておきます。事務所がレビューした中古ブランド品の事業者向け卸の原案は「注文の通知と代金の入金・決済の完了を確認した時に成立」としていましたが、メッセージアプリのやり取りの記録が消えるおそれと、売り手が承諾しない自由を持たない構造を指摘し、注文送信後のキャンセルができないことを明記するよう提案しました。化粧品ブランドの正規取扱店の契約では、「売り手が注文を承諾し、かつ買い手が代金の決済を完了した時に成立」とし、売り手が決済の完了を承諾とみなすと通知したときは決済完了時、という定めにしました(化粧品のネット販売と卸)。
成立時期の設計を先に示してから、運用を聞く
事務所が作るネットショップのヒヤリングシートでは、注文と契約の部の冒頭に「新しい規約では『商品発送の通知をもって売買契約成立』とします(注文確認メールは承諾ではない)。その前提で実運用を確認します」と書いてから設問を並べています。設計の前提を示したうえで、その設計で困る場面がないかを運用の側から確かめる順番です。
注文と契約の部で確かめたこと(プロ向けネイル用品の自社ECの例)
- 決済手段の内訳カード決済のサービス、コード決済の種類、後払いの事業者、代金引換の運送会社
- 入金期限と注文の有効期限決済手段ごとの期限と、期限を過ぎたときの扱い
- キャンセル・変更の受付発送準備前まで/出荷通知前まで/一切不可、のどれか
- 転売目的の注文見つけたときに実際にどう対応しているか
- 価格の誤表示・在庫切れ過去に起きたとき、どう処理したか
海外の会社の日本向け食品ECでは、「在庫切れ・輸入検疫の不合格・価格の誤表示のときは、発送前ならお断りする運用でよいか」と、規約の条項をそのまま運用の問いにして確認しました。
「キャンセル一切不可」の回答をどう条文にしたか
プロ向けネイル用品の自社ECでは、依頼者の回答は「注文のキャンセルは一切不可」でした。これをそのまま書くと、法令に基づくお客様の権利まで否定する書き方になるため、次のように留保を付けました。
利用規約 第◯条(注文の変更・キャンセル)
- 注文の確定後は、注文の変更及びキャンセルをすることができません。ただし、法令に基づく権利の行使並びに本規約及び返金ポリシーに別段の定めがある場合は、この限りではありません。
返金ポリシーの側には、届け先の誤りなどに気づいたら速やかに連絡してもらい、発送前で対応できる場合に限って店が協力する、という条を置きました。
支払期限を過ぎて注文が自動でキャンセルされた後に、お客様がコンビニで支払ってしまうことがあります。この店では、返金ポリシーにその場合の返金の手続と手数料の負担を定め、依頼者がすでに使っていた通知文と同じ内容にそろえました。さらに、決済代行会社から届く案内メールの支払期限が、店の定める期限より後になる場合があることを指摘し、依頼者の通知文にある注意書きをそのまま使い続けるよう案内しました(返品特約と返金ポリシー)。
複数アカウントと「過去の違反」の線引き
同じ人が複数のアカウントを持つことや、サロン単位でアカウントを共用することを認めるかをヒヤリングで聞き、原則禁止という回答を受けて、規約に判定の基準を書きました。当社が個別に承諾した場合を除き複数のアカウントは持てないこと、氏名・住所・メールアドレスその他の登録情報の同一性や近似性、利用状況などから実質的に複数保有していると合理的に判断したときは登録の拒否・停止・削除ができること、個人用と事業用の区分など正当な必要があれば事前に申し出て承諾を得ること、の3点です。注文を承諾しない事由と禁止事項にも同じ条を参照させ、会員価格の転用や特典の重複取得の防止につなげました。違反時の措置でアカウントの削除や利用の禁止を受けた人の再登録の申請は、承諾しないことができるとしています。
承諾しない事由には「過去に本規約に違反したことがある場合」も入れましたが、違反時の措置のうち投稿コンテンツの削除だけを受けた人は除きました。レビューを削除されたという軽い措置だけで、その後の注文まで断る根拠にしないための線引きです。また、退会の条には「退会の時点で既に成立している売買契約の効力は、退会によって影響を受けない」と書きました。退会の申出はメールでいつでもでき、店は合理的な期間内に処理します。退会した後の個人情報と購入履歴の扱いは、プライバシーポリシーで定めています。
依頼者からは「別のサイトで運営している会員制度も、この規約に定める必要があるか」という質問もありました。事務所は不要と回答し、規約の適用範囲をこのショップのサイトに限り、別のサイトの会員制度は別の規約・会員規程で扱う整理にしました。
事業者向けの取引で決済できなかったとき
化粧品ブランドの正規取扱店の契約では、決済ができなくなったときに直ちに別の方法で支払う定めに加えて、一度でも支払を怠れば期限の利益を失うこと、ブランドの書面の承諾なく相殺を主張できないこと、信用の状況によって前払いへの変更・与信枠の設定・出荷の停止ができることを定めました。成立の時期を「承諾と決済の完了」に置いても、カードの承認拒否やチャージバックは成立の後に起こり得るため、その後の支払の確保を別の条で決めておく構成です(化粧品のネット販売と卸)。
よくあるご質問
ネットショップの売買契約はいつ成立しますか?
規約で定めていなければ、店の承諾があった時です。自動の注文確認メールが承諾と受け取られないよう、規約で「注文確認メールは承諾ではない」「発送のお知らせを送った時に成立する」などと定めておくと、在庫切れや表示ミスに対応しやすくなります。
在庫切れや価格の表示ミスに後から気づいた場合、注文を取り消せますか?
規約で契約の成立時期と承諾しない事由を定めていれば、成立前なら承諾しないことで対応できます。成立後に判明した明白な誤りへの対応も、規約に書いておきます。
最終確認画面には何を表示する必要がありますか?
商品の分量と、価格・送料、支払の時期と方法、引渡しの時期、申込みの期間、返品特約です(特定商取引法12条の6)。返品特約は最終確認画面からもたどれるようにします。
前払いで代金を受け取ったとき、お客様にどんな通知が必要ですか?
受け取った後すぐに発送しない場合は、名称・住所・電話番号、受け取った金額と日、商品名と数量、引渡しの時期などを遅滞なく通知します(特定商取引法13条)。すぐに発送するなら通知は要りません。
事業者向けの卸サイトでも、同じルールが適用されますか?
特定商取引法の通信販売の規定は、購入者が営業のために買う取引には適用されません(同法26条1項1号)。それでも契約の成立時期は事業者間の契約で決めておく必要があります。
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本ページは一般的な情報提供です。許可・届出・免許の運用は、所管の行政機関によって異なることがあります。事務所の改訂例・ご相談の事例として紹介している内容は、アトラス行政書士法人が作成・レビューしてきたネットショップの利用規約・特定商取引法に基づく表記・返金ポリシー、酒類の免許の申請、化粧品・中古品・OEM・販路の契約書などを、個別の事業者が特定できない形に整理したものです。条文は e-Gov法令検索で確認しています(最終確認日:2026年10月15日)。参考: e-Gov法令検索 / 特定商取引法ガイド(消費者庁) / 消費者庁 / 国税庁 お酒に関する情報